百済寺
いよいよ開催となった滋賀の和邇での個展。※「神仏の饗宴」展:わに平ギャラリー都千本9/15~9/28
幼いころから何度も訪れてきた滋賀は、母の生まれ故郷でもあり、私にとっては第二の故郷のような懐かしさもある。
豊かな湖を抱えた深い緑の山々は、数多くの苔むしたお寺や、美しい仏の眼差しを隠してきた。近年、改めてその奥深い魅力に惹かれつつある。
わたしも、この機会にじっくりと、湖国巡りを始めようかと思う。
白洲正子が、滋賀にすっかり魅了されて、足しげく通い、
自伝に多くの旧跡を書き記してきたその足跡をたどってみたい。
思わぬところで台風が、関西をめちゃくちゃ荒らしてしまった翌日、
やっと滋賀を訪れることとなった。
東近江から順に、湖東三山の百済寺、そして金剛輪寺へ。
平日で人も少なく静かな境内は、台風の爪痕もことのほか影響は少なく、
むしろ地をしっかりと固めてくれていて、まるで嵐など無かったかのように、
緑のトンネルに爽やかな風が吹き抜けていた。
苔むした緑は、新緑のように初々しく見えて、もう初秋だというのに爽やかな色をしていた。蝉の賑やかな声が、ますます季節を混乱させていた。
「百済寺」
百済寺は、その美しい緑の階段を登っていくと、大きな草鞋が吊るされた仁王門にたどりつく。木彫りの逞しい金剛力士像がその肌に静かな時を刻んでいて、私たちを見下ろしていた。その門から見上げたところに本堂が見えた。最後まで階段を登りきろうとするところに、しめ縄を巻かれた全長50メートルほどの御神木が、高くそびえていた。まわりの木々たち天へとまっすぐに伸び、立派な樹齢を重ねていた。
本堂にはいくつもの宝物、この山奥に、まるで隠れるようにお守りされている仏像が、いっそう高貴ではかない表情をしていた。ひときわ惹かれたのが、小柄でふくよかな如意輪観音。片膝をついて頬に手をよせる、その表情には静かな色気がただよっていた。
どの時代もこの土地の人々に大切に守られてきた仏像たちは、この山奥でひっそりと、その慈愛の表情をたたえていた。
百済寺
「金剛輪寺」
百済寺から車ですぐのところにある金剛輪寺。
こちらも山際に、広大な敷地の一角に、入口となる山門をくぐる。
あまりその地の知識を入れずに行ったものだから、本堂までの山道は、
まるでどこまでも続くお遍路のような風情の坂道だった。
参道沿いには所狭しと等間隔に並ぶお地蔵さまと風車が、私たちをあたたかく見守ってくれていて、どこか安心させられてしまう。
はるか彼方の記憶に呼び戻されるかのような、またこの先の黄泉へと案内されるような、不思議な坂道は不安もつきたころにちょうど仁王門が遠くに見えてくる。
着物の裾をなびかせて白濁した険しい目をぎょろりとこちらにむけた仁王門が出迎えた。
金剛輪寺
国宝に指定された立派な本堂へとたどり着く。見上げると、本堂の後ろには、そびえ立つ木々の間に三重塔が見えた。
うっそうとした木々と共にそびえ立つ塔と、荘厳な本堂の迫力。あの地蔵の参道を抜けてたどり着いた天空の世界みたいだった。
本堂に祀られる仏像の数々は薄暗いお堂のなかでさびた肌をしても、よりいっそう神々しく輝いている。ぐるりとお堂の奥まで入って行けて、目の前で拝むことが出来た。勿体ないほどの距離が、後から思えば後悔するほどであった。
金剛輪寺
湖国
深く味わい深い風情は、京都でも奈良でもなく、この地の人々が古より育ててきた風土が生んだ独特の色をしている。
それは深く食にも通じていて、鮒寿司やもろこ煮、日本酒など、まさにこの地の味わいを表現している。
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