梅の香に誘われて

数年前から、梅の咲き揃う時期にいつも私は熱を出す。ちょうど厄落としの時節なのかもしれないなと覚悟している。それもいけない、癖になるからと、どうにか気持ちを張り詰めて2月を越えた年は、丸一年病気をしないことも。けれど、病というのは不思議なもので、体を休めれば自然と頭や心も整理をし始めて、膿み出しをはじめる。だから、年に一度のこの時期の病は、自分から進んで、気をつけてかかる事にしている。
こんな風になったのは、7,8年前の巫女さんをしていた時、私は節分祭の大祭にあたる大切な日を前に、高熱が出てしまった。大祭というのは、特に大切なお祭りで、当時、絶対に休んではいけないということを耳にしていたものだから、祭りの前日、医者嫌いな私も急いで病院へ走った。すでに高熱だったが、点滴をうって貰って、とにかく這ってでも行かねばと心に誓った。しかし、これまで体験したことのないほどの高熱で、立つことも出来ないまま、当日を迎えてしまった。結局、大祭は欠席し、私は気持ちの糸がぷつりと切れた心地がした。それから、私の心に浮かんでいたもやもやも、いっきに晴れていった。その日、巫女さんを引退することに決めた。きっと、神の思し召しだった。私の巫女さんとしてのプライドを、優しく手折られた日。
だから、この時期に熱を出すと思い出す事がある。
いま、立ち止まって考えるべきことはなにか。
静かに、自分の歩いてきた道を振り返りながら。


photo 今宮神社の梅