蛍火。


ぼうっと蛍が浮かぶように

私もいつのまにやら
我を失う

自在に闇を飛びかうように
消えては浮かぶ存在の儚さ

... ひとびとの集中する視線の先
飛び交う蛍

その灯の
確かに存在する意味はなく
浮かんでは消える
はかなさに酔いしれるのだ

誰かのヒトダマだと
ほんとにそうかもしれないと
闇の中では確かにそう思えるのです

それはちょうど平安神宮の薪能の帰り道。
その日は珍しく夜の白川べりを歩いて帰ろうと思った。昼間はまだしも、夜は暗いから近づかないところへ。
すると、能の幽玄な世界は、やはりつながっていた。
あまりにも日常に、ひやりとするあやうさ、あやしさ。

美しさの持つ妖しさというものを、きっと誰もが呼び起こされるように、通りがかりの人たちは、それぞれにその場に無言で立ちすくんでいた